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〈虚構としての人鳥グレゴヲル堂についての覚書〉
世界のどこかにあるのかもしれない、世界のどこにも無いのかもしれない、不思議な薬局。
長い髪の毛を不器用に縛った男の店主と、なぜか一羽のペンギンがせわしなく働いている。
一般の薬品も扱ってはいるのだが、この店の目玉となる商品は、【空想の中にしか存在し得ない薬品】なのだという。
例えば、不死の秘薬の元となる人魚の肉。
また例えば、ジャングルのある部族が暗殺に使うという、西洋医学では証拠が見つけられない毒薬。
その他にも、誰かの頭の中や伝説の中でしか知られていない薬品を、店主の男は読み古した本を諳んじるように手早く調合するのだ。
そして、頼まれてもいないのに
「実はね、この薬。誰も知らないこんなお話があるんですよ」
と、その薬品に纏わる、大抵はろくでもない話を長々と聞かせてくる。
黙っていると延々と話を続けるので、なんとか(一方的な)会話を切り上げ、決して安くはない会計を済ませて店を出る。
…しばらくすると、どうしたことか。買い上げたはずの薬品が手元から忽然と消え失せているという。
空想の中でしか存在し得ない薬品は、所詮空想上のものでしかないのだ。売り買いされたものは架空でなければならない。貴方が買い上げたことによってこの世に存在してしまったそれは、そのパラドックスに抵抗しようと絶え間ない変質を続けていき、いつかは消失してしまうものなのだと最初から決まっていた。勿論、店主はそんなこと少しも説明しなかったのだが。
店に戻ってクレームついでに返品(するものも無いのだが)しようとしても後の祭り。そこにあったはずの店は煙のように跡形も無くなっている。
貴方に残されたのは、嘘か真かもわからない、その薬に纏わる全く新しい物語だけなのだ。
Character
グレゴール氏
不思議な薬局「人鳥グレゴヲル堂」の店主のお兄さん。
誰かに話をすることが兎に角大好きで、よく話が脱線し着地点が見つからないことも。
どうして店の名前が"グレゴヲル"表記なのかと訊ねると理由を話してくれるのだが、長すぎて最後まで聞けた人間はいない。うっかりが多いが、腕は確か。
かえるくん
薬局で働くオスのジェンツーペンギン。特殊な訓練を受けているから普通の屋内でも元気にうごけるぞ。
お兄さんが毒の採取のためにヤドクガエルを業者に発注したときに、手違いでやってきた。
「まあ、こういうこともあるよね!カエルの代わりに来たからきみはかえるくんだよ!」というわりかしわけのわからない理由でややこしい名前を付けられた。
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